【70】大山

【2010年11月4日】

中国地方には目立った山が少ない。山陰・山陽へ名山探しに行って、結局この地方では大山一つしか推し得なかった…と深田久弥は日本百名山の中で書いている。この地方に在住する私としてはいかにも残念なことながら、やはり認めざるを得ない。魅力的な山が少ないので周りにも登山を理解する人が少ないのは事実だし、学生時代から山登りを始めた私自身が休みが取れればアルプスを始めとした他所にばかり遠征していることが何よりもそのことを実証しているとも言える。
そうした事情から当然、スキーや行楽では何度も通りがかるこの山への初登頂は2010年秋のことであった。否、大山には必ず登るつもりだったが、自宅から一番近い百名山であるがために何時でも登れる山というキープ意識から敢えて取り置いていたと言った方が正しいかも知れない。
愛犬を車に乗せて前日、蒜山高原まで行って朝が明けると、秋晴れの凛とした空気の中に紅葉のベールにお化粧された大山が見えた。夏山登山口を9時半に出発、高度を稼ぐこと僅か1時間余りで弥山頂上(標高1,709m)に到達した。ただ、最高地点の剣ヶ峰(1,729m)に至るラクダの背と呼ばれる主稜線の崩壊著しいため、何年も前から通行禁止で行くことができないのが残念だ。
日本海に突き出した弓ヶ浜と島根半島の眺望は、大山を杭に綱をかけて引っ張り寄せたという壮大な出雲神話の国引き伝説も実しやかに思える。暫し山頂でゆっくりカフェ休憩の後来た道を引き返し、途中の5合目から燃えるような紅葉が眩しい元谷へ下り荒々しい大山北壁とのコントラストを堪能しながら歩を進めると、程なく修験道の聖地として由諸正しい大山寺裏手に辿り着いた。石畳の参道沿いには紅葉狩りの観光客が大勢押しかけて大賑わい、やはりこの地方では登山はマイナーのようだ至る。

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