【39】悪沢岳(東岳)

【1991年8月19~20日】

翌朝、小河内岳(2,802m)に登って、左に塩見岳を右に富士山を配した山稜線上に昇ってくる御来光を満喫。私が“宇宙赤”の瞬間と勝手に呼んでいる、漆黒から群青、青紫、そして茜色へと変化する夜明けのグラデーションに久し振りの感動を覚えた。1時間以上山頂で過ごした頃合い、ようやく更に南へ続く縦走を再開した。
大日影山、瀬戸沢ノ頭、板谷岳を経て、昼前2,450mの鞍部にある高山裏避難小屋に着く頃にはガスに覆われて辺りの視界はなくなった。昼食を済ませてここから荒川三山へ3時間の急登に挑むも、途中から朝方が嘘のように雨が降り始める。カッパを着ての苦しい登りで体力は消耗、ようやく前岳(3,068m)、中岳(3,083m)に辿り着いたが強い風雨に見舞われ、荒川中岳避難小屋に駆け込んだ。「飯無し・水無し・例外無し」の立て看板を掲げる東海フォレストの管理するこの小屋、当日同宿者は小屋番の大也さん以外に、私を含め3名で皆な荒天にやられた避難者だった。
翌日も最悪の天候に見舞われる中、私はただ踏破という実績づくりのために主峰3,141mの東岳(悪沢岳)への往復3時間半のピストンを済ませて小屋に戻ってみると、昨日の同宿者3人が停滞、連泊を決め込んでいた。すっかり意気投合し、酒を酌み交わしつつ山談義やら各々の身の上話に花が咲く。ホストの大也さんの粋な計らいで彼の趣味オカリナのミニコンサートも楽しかった。
慶応出身のインテリでありながら小屋番に転身した大也さん、画家の夢を追うため仕事を辞めて南アルプスの完全縦走中の空(哲哉)さん、私自身がこの山旅で人生を考え直そうと思っていただけに凄く刺激になった一期一会の夜となった。

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