【65】八ヶ岳

【2009年10月10~12日】

一定の拡がりを持った高峰縦走がアルプスより手軽に愉しめる八ヶ岳は、登山初心者からリピーターまで幅広く沢山の人々の支持を集める人気の山である。
そんなヤツへの私の初登頂が27年越しとなったのは、生来の“天の邪鬼”気質のためである。実は学生時代に、麦草峠以北の北八ヶ岳エリアには二度足を運んだことがあるので、人気の南ヤツを敬遠してきたある意味確信犯とも言えよう。
そんな若気の至りを払拭すべく、ただ八ヶ岳登山のみを目的としてバイクでツーリングしてきた奥蓼科温泉郷の渋御殿湯でバイクを下りて登山を開始、12時過ぎ黒百合ヒュッテから稜線に入って最初のピーク天狗岳(2,646m)に13時半到着、根石岳を経て16時夏沢峠(ここから南が南八ヶ岳)にて初日を終えて⛺テン幕。

快晴の2日目朝、夜明け前の暮明を懐電を灯して硫黄岳(2,742m)山頂まで登って御来光の瞬間を待つ。明るくなるにつれて周りの展望がハッキリ見え始め、これから向かう横岳から盟主赤岳、阿弥陀岳にかけての主稜線の姿が浮かび上がってきた。
午前5時50分、硫黄岳山頂で御来光を独り占めして一頻り堪能してから先へ進むと、横岳(2,829m)への稜線上で富士山が見え始める。その昔、富士山と背比べして勝った八ヶ岳が富士に蹴飛ばされて八つの峰になったという神話が想い出される。
8時半、20人位の登山者で賑わう赤岳山頂で小休止の後、阿弥陀岳(2,805m)方面へ向かうと再び誰一人居ない静かな山行を取り戻せた。暫し稜線上の景色を堪能して行者小屋を経由して赤岳鉱泉へと下ってみると、再び大勢の登山者で賑わう喧騒の世界だった…折角の登山で都会並みの喧騒は御免こうむりたいと、ここでの宿泊を回避して早々に退却し赤岩ノ頭(2,656m)まで上り直して夏沢峠まで巻き道を戻る。今日もここに⛺連泊することになるんだったら空荷で行けば良かったのに…と後悔した。

第3日は初日の行程を逆に辿っての下山。一昨日は曇天で展望が利かなかったが、この日は昨日に続く快晴で主稜線と北八ヶ岳の近景のみならず、乗鞍岳、北アルプスをはじめ四周の遠望もバッチリ見えて思い残すことなく帰路を下って昼過ぎバイクの待つ渋ノ湯に到着した。
八ヶ岳に関しては、深田久弥は広濶な裾野、鬱然とした森林、三千米に近い岩の頂という変化のあるコースとして、初心の登山者を堪能させる一般大衆の山になったと嘆きつつも、本州中部でこの頂上から見落とされる山は殆どないと、天下一品の展望を称賛している。私も変な拘りなど打ち捨てて、もっと早くこの山に登っていたら良かったのに…というのが正直な感想であった。

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