【13】トムラウシ山

【1983年8月27日】

大雪山は総延長50㎞にも及ぶ北海道の屋根。前年の大雪登山の際、御鉢平を取り巻く稜線から南方に果てしなく伸びる尾根とその先に王冠のような立派な山が見えた。それがトムラウシで、一目でその姿に魅了された私は早速、翌年、大雪山系中央部に位置して容易ならざるアプローチとされるその山の登頂を目指して登山装備を整え2度目の大雪山へ入った。

前回同様に層雲峡からスタートして黒岳へ、そこからコースを左手にとって№3白雲岳へ登頂。その先はほぼ平らな気持ちの良い稜線だったが、そこは北海道有数のヒグマ生息域。前後に自分以外人影もなかったため、所々背丈を超える這松に覆われている場所を通過する際には、突然のヒグマ遭遇に怯えて大声で歌を口遊みながらの緊張感ある山行となった。
平ヶ岳、忠別岳と辿り、“神遊びの庭”と呼ばれる高根ヶ原、五色ヶ原稜線から紅葉とヒグマのメッカ大雪高原温泉方面を見下ろしてひたすら南進。チングルマの大群落を堪能しつつ山上パラダイスと称される化雲岳を過ぎると、下方にヒサゴ沼そして目線の前正面には憧れのトムラウシが間近に迫っていた。
深田久弥に「威厳があって超俗の趣がある…あれに登らねばならぬ」と言わしめた圧巻の存在感。逸る気持ちを抑え、その夜はヒサゴ沼避難小屋へ宿泊。山中にポツンと佇む2つの大きな池の側に立地するこの小屋の雰囲気の良さは格別であった。

翌朝、ヒサゴ沼を取り囲む稜線上まで一登りしトムラウシ山頂を目指す。次第に大きな石がゴロゴロ続いた不思議な登山道になり、ルートを失わないよう気を付けながらロックガーデンを上り詰めた頂上はやはり巨大な岩が積み重なる壮観であった。一頻り”大雪の奥座敷”と呼ばれる山上の楽園を満喫し、天人峡温泉へ下山した。

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