【84】恵那山

【2015年7月26日】

この年、残る百名山を辿る車旅のスタートとして恵那山を目指す。高速道を約500km走行して昼過ぎ、早速入山すべく登山口へと向かうも、予定ルートが通行止めで止む無く初日は観光に切り替える。
日本アルプスの父ウェストン碑、恵那神社、島崎藤村「夜明け前」の有名なフレーズ…“木曽路はすべて山の中である”の馬籠宿・妻籠宿に行き、恵那山のメインルート登山口神坂峠まで進んで夕焼けを眺めて早目に就寝した。

深田久弥の日本百名山には、島崎藤村「夜明け前」の馬籠から南に当たって大きく恵那山がそびえるとある。その名の由来は、元は胞山で、イザナギ・イザナミの二神が天照大神をお生みになった時、その胞をこの山頂に納めたことと記されている。その話の通り、頂稜線には小さなお宮が7つ、一番奥のピーク直下に恵那神社の奥宮があった。昨日、里の前宮に参拝したので、完全制覇ということになる。
さて、私は夜明けと共に登山を開始、鍛えた成果か…コースタイム4時間半の上りを2時間半で登頂できたので、景色が見えないと不評の山頂で、ゆっくり珈琲豆から挽いて煎れたブラック珈琲とパン、そして昨日農産物直売所で買ったトマト🍅のプチ贅沢な昼食を摂る(山で生物やインスタントでない食材を食べるのは贅沢…)。
頂上にいた人達に、途中見つけた展望スポットの四ノ宮裏手の獣道奥の狭い場所を教えてあげたら、帰り道に見るとそこが渋滞‼数人に話したことがあっという間に広まったようで、まるでSNSの実写版でビックリした。
その場所からは、北西から遠くに加賀の名峰白山、目の前には御嶽山、脇には乗鞍岳と奥には北アルプス、正面には中央アルプスと南アルプスが眺められる奇跡的なスポット。よく見ると荒川岳、聖岳の肩越しに富士山も見えた(つまり全ての山が見渡せる…)。

その日の朝、稜線上に佇む見ず知らずの老夫婦にこの恵那山のアングルの写真のシャッターをお願いした。普通はお互い様で「じゃあ替わりにお二人も一緒に撮りましょう」「じゃあお願いします」となる訳だが、その老夫婦は「もう写真も何も遺さないことにしている」と仰って固辞。
変わってるなぁ…と思いつつ、自分に置き換えてみた。果たしてそんな風に達観出来るだろうか?人生の最終盤を迎えて、二人仲良く山登り…冥土のみやげにと、写真はおろか土産物漁りにあくせくする人が大半であろう。何とも潔良いスタンスだ。
お二人は自分等はペースが遅いのでと、昨日の昼間に登山口に来られて夕陽を眺めながら穏やかに談笑されていた。お二人が同じ方向(夕陽)をじっと見つめておられたのが印象的だった。
翌朝誰より早起きして一番に登山を開始された様子。夕べも今朝も写真を撮ることなく、しみじみと眼に焼き付けておられた。何かとても良いものを見させて頂いた。

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