【49】空木岳

【1999年7月26日】

翌朝、檜尾岳に登り直して御来光を拝む。伊那谷を埋め尽くす雲海の上に南アルプスの山々が拡がり、その奥に八ヶ岳まで見通すことができた。反対の西側には泰然と聳える御嶽山、南に続く稜線の先には今日のメイン空木岳の姿がハッキリ見えた。私も中央アルプスにある空木という名の山にある種メルヘンチックな妄想を抱いていたが、後から読んだ深田久弥の日本百名山の中でも、深田が「空木、空木、何というひびきのよい優しい名前だろう」と心惹かれたとあるのを知った。その山を目の前にして、私は逸る想いを抑えきれない興奮を覚えた。
東川岳(2,671m)を過ぎた辺りから谷の雲が段々湧き上がってきたが、空木岳に隠れてそれまで見えなかった南駒ヶ岳から越百山まで眺望が開けた。
空木岳(2,864m)の山頂はハイマツと花崗岩のコントラストが麗しく、深田久弥はこの辺りの尾根道を称して「一面にハイマツに覆われ、磊磊という難しい漢字が似合うような岩の群が、巨人のおもちゃ箱をひっくり返したように散乱している」と形容している。
その尾根を赤椰岳(2,798m)、南駒ヶ岳(2,841m)、仙涯嶺(2,734m)と辿るうち、稜線はすっかりガスで覆われ最南の越百山(2,613m)までの縦走を果たし、木曽谷側の大桑村伊奈川ダム(1,100m)へと下山した。

  • はてなブックマークに追加