【8】薬師岳

【1983年7月30日】【2008年8月13日】

大学2年の夏休み、私にとって初めての北アルプス登山となったのが、逍遥会の夏山合宿での薬師岳~黒部五郎岳~笠ヶ岳の縦走であった。7月27日、急行能登号に乗り込んだ8人の男女混合パーティ(L南㊚・SL長谷川㊛・伊庭㊚・川野㊛・小原㊚・森田㊚・篠原㊛)だが、このサークル酒好きの猛者が多く、一晩中飲んで騒いで殆ど二日酔い状態で富山へ早朝到着。富山地鉄と有峰湖行きのバスを乗り継ぎ、9時前登山口の折立に到着。その日は長旅を癒すべく…というかお酒を抜くために折立に留まって⛺テン幕。
翌7月29日快晴の朝4時起床5時15分出発、樹林帯の急登をもくもくと登り1,870mの三角点を過ぎると草原状の緩やかな道に変わった。左前方には薬師岳も見えてきて気持ちの良い登山道であったが、陽射しを遮るものがないため汗だくになりながら7本(3時間32分)で薬師峠に到達した。
稜線上の太郎平小屋に着くと、雲ノ平、黒部五郎岳、裏銀座の山々に加え、遠くに槍ヶ岳が見えた時の感動は生涯忘れ得ぬものだった。
寝る前トイレに行った時には、満点の星空に天ノ川も見れて皆なが翌日の薬師登山を楽しみに眠ったにも係わらず、翌日は辺り一面靄に覆われ雨と強風で寒い悪天候となった。女の子は池塘やお花畑が絵本の世界のようだと前向きにはしゃいでいたが、やはり展望無しのピークは空しい。せめてもの癒しと、寒さを凌ぐため皆でコーヒーを沸かして飲んだ。
薬師岳(2,926m)ピストンの下山中に束の間の晴れ目もあったが、14時頃から雨は更に強まりテントは浸水の危機に陥ったため、我々男子はカッパを着て急遽側溝掘り作業で土まみれ。その日は5本(3時間2分)の行程だった。

薬師の眺望を愉しめたのは実に四半世紀後の2008年夏のことだった。東端の燕岳から入山して中央の槍ヶ岳を越えて6日目、8月13日に西端の薬師山頂に到達した。好天の山頂に立って積年の想いを遂げ、思い残すことなく下山口の立山室堂へのマイナールートを北上。その日はスゴ乗越で⛺テン幕し、翌日ガスの中を越中沢岳(2,591m)への急登を登り切ると雨天となる。脚は筋肉痛でパンパン、合羽の蒸れもあって大苦戦しながら五色ヶ原を通過して、ザラ峠から獅子岳(2,741m)、鬼岳(2,750m)へ登り直して何とか下山が見えた龍王岳(2,872m)から浄土山(2,831m)にかけての稜線最高所で猛烈な雷雨に遭遇。周囲500m圏内に次々に落雷する最悪の状況に直面して、屋根のない石室に身を屈めて祈ること1時間、全身ずぶ濡れで何とか凌いだが低体温症寸前の最悪な事態を経験。幸いにも落雷は避けられたが、立山室堂に着いた時には靴内もザックも完全に浸水、着替えの衣類は全てびしょ濡れだったので、帰りのバス車内でも暫く寒さに震えながら帰還した。
もし、この事態が下山日ではなくて縦走途中だったらと思うと、まだラッキーだったと山の怖さを初めて身を持って痛感したきちょある意味貴重な体験であった。

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