【36】五竜岳

【1989年8月11日】

1989年の夏、前年秋の人事異動で超過酷な尾道支店へ転勤して以来、毎日午前様続きの仕事漬けの日々を送る中、学生時代の逍遥会の小西・小川両君のお誘いを受け後立山連峰の縦走へ向かった。
初日は白馬大雪渓を登り詰めて白馬山荘まで。3度目の勝手知りたるルートに油断しきっていた私は、2人に着いていけず大きく延着。仕事にかまけて全くトレーニング無しに遠征に至った当然のツケが早速露呈する。
2日目の唐松山荘までの行程も学生時代に単独行で辿ったルートであったが、杓子岳(2,812m)、鑓ヶ岳(2,903m)の白馬三山を通過して天狗ノ頭までは、のんびりした尾根歩きができるので着いていけたが、そこから天狗ノ大下りを通過して不帰ノ剣の上りに至るとまたしても自分だけ遅れて別行動となる。学生時代に初めて通った時には、足元がスパッと切れ落ちた横梯子など不帰Ⅰ峰、不帰Ⅱ峰、不帰Ⅲ峰と続く難所に怖さと闘いながら緊張して通った強烈な想い出のここも、今回は恐怖より体力が優先して周りを見る余裕もなかったためか…意外にさらりと通過できた。
3日目は前回の縦走時に暴風雨のため唐松岳(2,696m)から下山せざるを得なかった宿題の五竜岳へ。疲労蓄積で体力に自信がなかったことと同時に、積年の想いを噛み締めて歩きたかったため、朝1本目から2人に別行動を申請しマイペースで歩くことにした。
五竜岳(2,814m)は高さこそ特別ではないが、山容雄偉、岩稜峻嶺、大地から生えたようにガッチリビクとも動かないと深田久弥も称する堂々とした図体をしていて、唐松岳から大黒岳を下り、遠見尾根と合流する白岳(2,541m)、五竜山荘と進むに連れて、いよいよ眼前に大きく立ちはだかってきた。
約1時間の急登を我慢して登り切り、念願の五竜ピークを踏む。
今日の泊地キレット小屋までコースタイムは3時間半を残していたので、感傷に浸る暇もほどほどに出発。ここからは明日の鹿島槍ヶ岳への難所、八峰キレットの前哨戦となる鎖・針金の取り付けられた難路なので気が抜けない岩稜帯。G4ピークから幾つかのG名のついた登降を経て北尾根ノ頭、口ノ沢のコルと続くポイントを無事通過して、2人に大きく遅れて狭い鞍部に建つ小屋に到着した。

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