【19】常念岳

【1984年7月29日】

逍遥会大学3年の夏山合宿は、私がSLを務める男女6名の混合パーティ(L斉藤㊚・久保田㊚・佐野㊚・塩田㊛・草野㊛)。7月26日の夜、新宿アルプス広場に集結して毎度の酒盛りの後、夜行急行列車アルプス号で松本へ、そして松本電鉄で新島々、更にバスで上高地へと貧乏学生の定番交通手段で上高地へ入る。スタートは槍・穂高連峰のパノラマ台、蝶ヶ岳から常念岳の稜線を目指す。天気は梅雨明け十日の快晴に恵まれ、27日は徳沢園まで3本(1時間55分)の足慣らし。これから1週間風呂に入れないため、冷たくて10秒も浸かっていられない梓川へ飛び込み水遊びの後、テン場ではこれまた暫く飲めない缶ジュースを買って掟破りのハイサワーで乾杯し気持ちよくシュラフに潜り込んで熟睡。
翌28日からいよいよ登山の開始、10円ハゲのような狭い空地の長塀山ピーク、女子が信じられないほど美しいと感嘆の声をあげた妖精ノ池を経て、蝶ヶ岳ヒュッテへ8本(4時間8分)と、混合パーティ(男4・女2)ならではの緩いペースで緩い坂道を歩いて高度を稼いだ。
29日は合宿前半のメインとなる蝶常念に登る日。この日も好天に恵まれ、テン場で起床・朝食をとっていると槍穂稜線が次第にはっきり見えてきた。モルゲンロートに映える槍穂の絶景を眺めながら朝の1本(30分)で蝶ヶ岳の丸いピーク(2,664m)に登頂。メンバーの中にはその先の蝶槍を常念と勘違いしてガッカリした者もいたが、今日の本番はここからである。蝶槍の西側から200m急降下して樹林帯を抜けると、目の前にそそり立つ巨大な常念岳の姿に圧倒される。鞍部からひたすら蟻になって登る途中、後から「逍遥会ですか?」の声がかかった。聞けばOBの方のようで、疲れを忘れさせてくれる驚きの出逢いに皆な感動しましたが、我々が常念岳ピーク(2,857m)に辿り着いた頃には追い抜かれた先輩方の影も形もなく、夢のような一瞬の余韻だけが残った。私もいつか後輩に出逢ったら、こんな風な萌香を感じせせられればと思ったが、その後一度も山で逍遥会のパーティに巡り合ったことがない。尤も、我々の頃は1年生が背負うキスリングの後ろにデカデカと大学サークル名が書いてあったが、最近の学生は皆なアタックザックなので一目でそれと判らないという事情もあるので仕方ないかも知れないが…。
その日は常念乗越まで40分下って常念小屋キャンプ指定地まで8本(4時間5分)の行程だった。

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