【44】仙丈岳(仙丈ヶ岳)

【1993年7月19~20日】【2011年8月9日】

雨中の甲斐駒ピストンの翌19日は南アルプスの女王、仙丈ヶ岳を目指し荷物を背負ってひたすら登る。大滝ノ頭(2,519m)を過ぎて森林限界を超えると、周囲の山の形が視認できるようになったが、その日も雨こそ降らないが相変らずの曇天で満足な展望が得られなかった。更に、高度を上げて小仙丈ヶ岳(2,855m)を超えると完全にガス帯の中、再び真っ白な世界に入って仙丈小屋前で⛺テン幕し明日にかけることとした。
翌朝、田中君は疲れが溜まってグロッキー状態、⛺テントに彼を残し一人仙丈ヶ岳ピーク(3,033m)を目指す。5時前、甲斐駒の肩から待望の御来光が拝め、鳳凰三山と北岳、間ノ岳の奥に富士山の姿も見えた。キャンプ地から僅か30分で登れるだけに、何とも勿体ないことだと思いつつテン場まで戻って彼と合流、帰路は馬ノ背を経由して藪沢、大滝ルートの雪渓道を下って9時20分、南アルプス林道の大平山荘へ到着。バスに乗って車を駐車している仙流荘へと向かった。
この甲斐駒・仙丈への登山を経て、私は社会人になって以来の紆余曲折のサラリーマン人生を振り返り、次に向かうべき方向性のアウトラインが朧気ながら見えてきた。大学2年の夏に利尻で出逢った中高年商社マンがもう一度生き直したいと溜息交じりに話していた生き方、即ち組織の価値観に左右されるのではなく自己実現を目指す責任ある人生を目指そうと決意。翌年から1996年公的資格である中小企業診断士の合格まで3年間登山を封印、出勤前の2時間人知れず毎朝5時起きで自己啓発の勉強に取り組むサブマリン的努力の日々に勤しむこととなった。

2011年の夏、1991年夏に辿った時と同じルートで三伏峠を登り詰め、今度は塩見岳から北側の仙塩尾根を4日掛かりで縦走して2度目の仙丈ヶ岳への登頂を果たす。塩見岳と仙丈ヶ岳をつなぐロングランコースの途中、三峰岳(2,999m)から東へ進めば間ノ岳(3,189m)に至る稜線ながら、途中の泊地が少ないこの道を辿る登山者の姿は殆ど皆無、静かな山旅が味わえた。
前回は行けなかった大仙丈ヶ岳(2,975m)周辺にはハイマツの庭園が拡がり、更に進んで18年振りに仙丈ピークを再び踏む。夏の午後、湧き出すガスに覆われ始める中、当時と同じ道を小仙丈ヶ岳から大滝ノ頭と時計の針が戻ったかのように思い出しながら辿り北沢峠へ下った。

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