【79】苗場山

【2014年9月27日】

苗場山は街道筋から見えないとされる山。私も越後湯沢から国道17号線を辿り祓川登山口(1,300m)に入ったがその姿を捉えることができなかった。苗場というとスキー場のイメージが強く、何か派手な大衆的な山かな…とある種歪んだ気持ちでこの山に登った。
朝6時半、かぐら・みつまたスキー場のリフト沿いに登山を開始。林道を登り切って振り返ると、眼下にはカッサ湖(田代湖)と谷川連峰の山並みが俯瞰でき、周りは笹の緑を基調に黄・赤の紅葉が彩りを添える湿地帯に入った。下ノ芝から上ノ芝へ続く木道を進み、8時半8合目の神楽ヶ峰(2,030m)を過ぎると、行く手に意外に格好のいい苗場山(2,145m)が見えてきた。1時間進んで頂上部に到達してみると、周り一里(700ha)に広がる絶頂に田形をして苗の如きものが生じている様から山名をとったとの話通り、この茫漠たる高層湿原には大小無数の池塘(1,000以上)と広大な草地の別世界が拡がっていた。
私は草紅葉に色づいたこの広い高原のあまりの心地良さにザックを枕に暫し横になって昼寝をとり、まるでどこかの公園で寛ぐかのように秋のひと時を愉しんだ。快晴の土曜日、苗場山頂には多くの登山者がそれぞれ思い思いに明るい笑顔で幸せな時を過ごしていた。正午前のこの瞬間、まさか別の山で大惨事が起こっていることは露知らず、私は下山の途についた。
そのニュースを知ったのは下山してから…11時52分御嶽山の大噴火、戦後最悪の火山被害で52名の尊い命が失われた。絶好の登山日和の週末、至福の時間が暗転するこの大惨事に思いを馳せて合掌した。

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