【31】那須岳

【1985年12月8日】

大学4年の初冬12月6日、思い立ってひとり那須登山に出掛けた。東北本線で黒磯駅へ、そこからバスで板室温泉まで移動して沼原まで林道を辿る。周囲の山にはうっすら積雪も見られたが、この辺りには全く雪はついていなかったので、この日の目的地の三斗小屋温泉まで問題なく辿り着けるものと安易に考えていた。
通常コースは麦飯坂を三斗小屋宿まで一旦下って林道経由で上り直すものであったが、自分は高度を下げずに那須山麓御沢上流部の谷を巻く点線道を辿ることにしたのが大失敗。大量の落ち葉で道らしきものが見当たらなくなり、方角だけを頼りに高度を上げていくと今度は膝上まで溜まった積雪、その誰一人歩いた形跡のない道なき道をラッセルで掻き分けて進み、日暮れ寸前で那須岳から小屋に至る正規登山道に合流して何とか命拾いという大失態であった。
三斗小屋温泉には2軒のひなびた山小屋宿があった。私は初日、新しく浴槽を改装したらしい大黒屋に宿をとって遭難もどきの疲れを癒し、翌日も連泊することにして今度は煤けて黒光りする梁や桁の雰囲気が素晴らしい煙草屋に宿泊した。冬時期でも若干名の年配湯治客が連泊していたが、寒い屋外の露天風呂には誰も浸かっていなかったので、一人で独占して峰々を見渡す雪見風呂を存分に愉しませてもらった。
当初の予定では那須全山縦走を目論んでいたが、結局登山は3日目に峰ノ茶屋(1,725m)まで登って剣ヶ峰を散策し、最高峰茶臼岳(1,898m)を辛うじて踏んだのみでそのまま北風吹きすさぶ峠を越えて那須湯元へ下山した。

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