【33】穂高岳

【1986年8月9日】【2004年8月11日】

穂高連峰と言えばアルピニストの誰もが憧れる北アルプスを象徴する山だ。私にとっても、高校の修学旅行で河童橋から見上げて、初恋の如く一瞬で心を奪われた想い出の場所で、いつか絶対に登りたい山だった。ところが、部活の山行パーティで何故か計画に縁がなかったことと、単独行の対象としては危険イメージが邪魔して結局、学生時代に登山の機会がないまま大学を卒業。本当は行こうと思えば行けた筈だが、元来”天の邪鬼”な性分の自分にとって、あまりに皆にチヤホヤされる穂高にある種…ヤキモチを焼いて敬遠していたといった感じだろうか?。

そうした事情で後ろ髪を引かれたままの情況の私に、登山のキッカケをくれたのは意外にも社会人1年生の夏、就職した広島銀行の山岳部に誘われてのこと。お盆休み山小屋泊の山行で、混雑を避けて臭いトイレ前へ逃れて寝るという嫌な思いもしたが、好天に恵まれ想像以上に素晴らしい眺望を皆で共有できたいい旅でした。上高地~涸沢カール~北穂高岳~奥穂高岳~前穂高岳~岳沢の行程には、涸沢稜線や前穂吊尾根といったスリリングな箇所ありの2泊3日行程。幅広い年齢層の男女混成パーティの中で、若手の山経験者は自分と明大ワンゲルOBの中富先輩だけだったため、諸先輩方から何かと頼られる立場ということもあって程よい緊張感を抱きつつ歩いた最終日、奥穂~前穂稜線から岳沢越しに上高地を見下ろした時の感動は今も忘れません。

2度目に穂高へ逢いに行ったのは2004年18年振りのこと。今度は槍ヶ岳から槍穂稜線を南下して奥穂高岳までの単独縦走。槍ヶ岳~中岳~南岳までガスに覆われたが、翌朝は晴れ上がって来し方の槍ヶ岳と、遥か行く手の穂高連峰の眺望を満喫。心を決めて最大の難所…大キレットへ差し掛かる。3点確保を総動員し、身体を滝谷側(西)と横尾谷側(東)へ何度も振りつつ北穂高への急登まで到達して無事難所を通過。そこからは前回ルートを辿って奥穂山荘泊まり。茜色に染まりつつある夕暮れ時を一人小屋前でビールを片手に耽っていると、隣りに居合わせた同宿のトヨタ社員の方と意気投合して話し込む。私は基本的に小屋泊より自由なテント泊を好むスタイルだが、こうした心地良い山仲間との一期一会の山談義は悪くない。翌朝は奥穂高岳山頂でご来光を拝んで、涸沢カール経由で上高地へと下った。

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