【69】早池峰(早池峰山)

【2010年7月13日】

柳田国男の遠野物語に「四方の山々の中に最も秀でたるを早池峰と言う」とある山。
遠野は座敷童やおしら様、河童淵といった伝説とデンデラ平でのリアル姥捨て悲話など数々の民話の舞台で、謂わば中世にタイムスリップしたような異次元を感じられる地だ。その暮らしの中に大きな存在感を示す山が早池峰神社のご神体でもあるこの山である。また、早池峰薄雪草というヨーロッパアルプスのエーデルワイスに似た固有の花が咲くことでも有名だ。
そうした理由から、私にとって東北地方で一番憧れていたのが早池峰山だった。
ようやくこの山に登ることが出来たのは2010年の初夏、北海道・東北の車山行の最後に薄雪草の開花時期に合わせてのことだった。
河原坊からコメガモリの沢筋を登ると、霧の中を天狗が飛んでいて頭をぶつけたという伝説のある打石に象徴される巨岩・奇岩群の連続となる。愛犬🐕マロンも鎖のつけられた大きな一枚岩で立ち往生、荷物を置いてリードを引き上げて何とか登り切ることが出来た。
足元には期待通り早池峰薄雪草をはじめ高山植物が一斉に花をつけ、想像以上に素晴らしい登山となった。霊山早池峰ということで🐕犬連れには憚られる思いもあり、早池峰神社脇の1,917mのピーク写真を撮ると休むことなく直ぐに下山することにした。
帰り道、また一枚岩で時間を喰っていると谷向かいの中岳(1,679m)稜線上に居たツキノワグマがうなり声をあげて威嚇してくるのが聞こえた。かの柳田国男曰く「人煙の稀少なること北海道石狩の平野よりも甚だし」とされ日本のチベットに譬えられた北上山地僻遠の地である遠野郷、その中の最高峰らしい思い出深い登山が経験できた一日だった。

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